「電子文藝館」運営の姿勢

館長・理事 秦 恒平

「電子文藝館」は、どういう「基準」で会員作品を展観していますか――。

 そんな読者からの質問がありましたので、「これまでは」こう考え、こうして来た、というところを申し上げておきます。

 日本ペンクラブは「正会員」約二千名で組織され、会員はすべて対等・平等です。会員なら、一年に一作ずつ「電子文藝館」に自作を出稿できるという申し合わせにも、例外はなく、また出稿作品はだれにも「審査されない」のです。全員が同じ資格で会員である以上、当然です。「入会」を受け入れた理事会で、会員たる質と能力はすでに審査され認められているのですから。その先は、文字通り「言論表現の自由」ということになります。

 運営する委員会も、「選者」かのように会員作品に向かうことはありません。主として掲載上の体裁を整えたり、ジャンルにより量や長さで取り決めに逸脱していないかを見たり、出稿作品の誤記・脱字等をチェックして著者と折衝したり、電子化に際して機械環境によりよく適応させたり、その他問題処理の意見交換等をメーリングリストや会議により休みなく活動しているだけです。

 電子文藝館は公共の大きな「展示館」「読書室」であると同時に、会員各自のいわば「自己証明」の場でもあります。同じ年会費を支払っている「正会員」各自の「出稿」は、だれに否認・拒絶されることも有りません。否認出来るのは、不当で根拠のない個人誹謗の原稿に限ると申し合わせています。出稿の「質」自体は要するに自己責任なのです。(言語的にむちゃくちゃな外国語原稿も困るのですが、この点は別に討議されていいと思っています。)

 つまり、現在の「ペン電子文藝館」には、「二つ」の、ちがう手順を経た作品群が展観されているということです。
 一つは、現会員の「権利」としての無審査出稿、
もう一つは、選別され依頼された「物故会員席」「招待席」および「特別三室」の作品です。後者では、内容により表現により、委員会で「受け入れない」ないし「選ばない」ことが可能です。
 何を受け入れない・選ばないか。
 人権を差別的に不当に傷つけたり、不当に好戦的・平和破壊的であったりする内容の作品や発言は、たとえ文学・文藝として優れた表現を得ていても、吾々の電子文藝館が採用する必要はないということです。
 何を選ぶか。
 有名筆者の場合、なるべく異色作や問題作や見忘れられがちな秀作を選ぼうとしてきました。が、やはりこれは読まれたいと思う有名作を選んでいる例もあります。現在なお書店等で入手のラクな作品はなるべく避けています。
 もっと大事に考えていることが有ります。もう忘れられかけている、しかし生前には力ある優れた仕事をしていた、残念ながら湮滅直前の書き手たちの仕事を、大切に、敬意を払って再現していることです。展観リストで、そういう秀作・力作をたくさん発見されることでしょう。
「招待席」「物故会員席」には、すべて、人と作品の丁寧な「略紹介」を添えています。(現会員の場合は、発展途上の書き手であること、異論やばらつきの出ることを考慮して、「略紹介」は極く簡単に揃えています。)

「反戦反核」室の存在は、国際ペン憲章に照らしても言うまでもない大事な主張です。また「出版編集」室を設けて、優れた先達の発言・意見・回想等を採り上げているのも、会員に「E=editor」を含むペンクラブとして、当然の姿勢です。さらに「主権在民史料」特別室を新設した理由は、この前の「現況」報告で明らかにしている通りです。
 今一つ、「会員」相互の活溌な討論や意見交換等のために、「広場」欄も用意してあります。

「さすがに」と読者に喜ばれ評価される優れた作品群で「電子文藝館」を満たしたい気持ちは、有り余るほどです。そして十分とも決して思っていません。読者のみなさんからの、知名度などに泥(なず)みない厳しい作品批評や論議の起きることも、館長として、私個人として、いつも切望しています。
 あるいは、時として、この掲載作品は問題だなと思い思われる「現会員作品」も、多数の中には混じることがありましょう。しかし日本ペンクラブないし電子文藝館は、言論表現の自由に生きるいろんな「会員」で組織され維持されています。ご理解をお願いし、しかしご批判はいかようにも活溌にお願いしたい。
 ぜひ早い時期に、「読者」参加のいろいろに可能な「窓」が、電子文藝館に適切に開かねばならぬと、日本ペンクラブは希望しています。

2005.4.25


電子文藝館の現況 2005ペン総会に当たって

秦 恒平 館長・理事  2005.4.15

 日本ペンクラブ「電子文藝館 = http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan」が、インターネット上に開館・発信され初めて、三年半。招待席に招いた、幕末の河竹黙阿弥にはじまる明治大正の文豪・思想家・詩人たち、また島崎藤村ら十四人の歴代会長、その他昭和・平成の物故会員・現会員に至る、五百人・六百作に近い作品が展示され、国内外で日々多くの読者・利用者をあつめている。電子文藝館は、むしろ日本ペンクラブの外の世間で、より広く、より深く知られている、といっていいほどである。それが、パブリック・ドメイン(公共財)としての文化活動たる、ほんとうの姿であろうと思っている。

 電子文学館は無料公開の大読書室であると同時に、日本ペンクラブ会員が一人一人その存在を作品により自己証明している場でもある。また、日本ペンクラブの活動を支える力の表現でもある。その趣旨をより具体的にあらわそうと、電子文藝館は過去、一年を経るごとに、相次いで三つの「特別展示室」を新設してきた。先ず最初に「反戦反核」特別室によって、ペン憲章の平和を願う意図に呼応し、次年度には「出版編集」特別室を設けて、ペンクラブがただ書き手だけの団体でなく、優れた出版・編集の伝統と人材をも抱え持った団体であることを明らかにし、そして憲法問題が大きな話題になる今年度には、心して「主権在民史料」特別室を立ち上げ、近代日本が、文学・文藝もともに歩み続けた「主権在民への荊の道」を、各種史料により記録し、保存し、語り伝えて行こうと考えた。

 昨年の「ペンの日」に提案して承認された「電子文藝館 主権在民史料特別室」には、すでに数多くが展示・発信されているが、中でも、委員会が強く願って実現した企画がある。それは、優れた歴史家の歴史記述に借りて、「近代日本 主権在民への道」を、たとえ大まかにでも、いつでも、だれにでも、容易に通観できるようにしたい、永く後々にも伝えたいという思いであった。色川大吉氏、今井清一氏ら関係者のお許しを得て、意図した内容は下記七編の表題から看取されたく、ぜひご通読、また、広くご推奨願いたい。

 井上  清 「近代天皇制の確立 新しい権力のしくみ」
 色川 大吉 「自由民権 請願の波」
 隅谷三喜男 「大逆事件・明治の終焉」
 今井 清一 「関東大震災」
 大内  力 「ファシズムへの道 準戦時体制へ」
 林   茂 「太平洋戦争 総力戦と国民生活」
 蝋山 政道 「よみがえる日本 占領下の民主化過程」

 何故これを企画し実現してきたか。近時日本国の、なにやら不穏に「主権在民」の理想を侵しかねない政治的な反動を懼れる気持ちから、とだけ、あえて明記しておきたい。
 会員各位の賛同を得つつ、「電子文藝館」をますます時代と文学・文藝にかかわる文化活動として、前進・充実させて行きたい。 

 幸い、無事この二年を館長として勤め得られたのは、会員諸氏、多くの読者また委員会を支えられた委員各位の御陰である。任期の果てるいま、ひと言、お礼を申し上げる。


日本ペンクラブの自己証明

日本ペンクラブ電子文藝館長 秦 恒平

 新任に際し所信を述べ、電子文藝館の現況を報告したい。
 日本ペンクラブ井上ひさし新会長は、就任に当たり、反戦・反核を第一に、日本国憲法・国際ペン憲章・国連憲章を尊重して、言論表現活動を活溌に展開したいと基本姿勢を示した。「日本ペンクラブ電子文藝館」はこれに賛同し、わが近代文学の「豊かな軌跡」を示すとともに、「国境なき文学・文藝による平和への意志」を国内外に発信し続けたい。

 電子文藝館は、日本ペンクラブ創設(1935)時の島崎藤村会長より井上現会長にいたる歴代すべての作品を掲示し、現役・物故の会員作家作品も、多くが慎重に選定され掲示されている。また幕末より明治大正昭和におよぶ諸先輩作家たちの秀作・異色作・問題作を「招待席」に招いて、近代文学史の流れを自ずと眺望可能にしている。さらに加えて「反戦・反核」室を特設し、会員・非会員の別なく、永く保存すべき関係作品を収集展示しようと努めている。掲載作は開館一年半、すでに三百作を超えて、日々に数増している。

 われわれは、これら一切を「パブリック・ドメイン=公共の文化資産」と認めて無料公開し、広い世界の愛読・愛好に応えている。研究者用のテキストとしてでなく、新世紀ウエブ環境の新しい読者たちの前に、本文の意義と表現を誠実に損なわずしかも「読んで楽しめる」受発信をと、日々、苦心工夫を重ねている。ますますのご支援を得たい。

 2003年4月25日の日本ペンクラブ総会を経て


日本ペンクラブ電子文藝館を発信する

日本ペンクラブ会長 日本ペンクラブ電子文藝館長(初代) 梅原 猛

 日本ペンクラブは国際的な文筆家団体である。国際ペン憲章は、「藝術作品は、汎く人類の相続財産であり、あらゆる場合に、特に戦時において、国家的あるいは政治的な激情によって損われることなく保たれねばならない」とし、また「文藝著作物は、国民的な源に由来するものであるとしても、国境のないものであり、政治的なあるいは国際的な紛糾にかかわりなく諸国間で共有する価値あるものたるべきである」とも宣言している。核実験に反対し、環境問題や人権問題につよく提議し、言論表現の自由を護ろうと闘うのも、その基盤には、会員の文学・文藝の「ちから」がなくてはならない。「ペンのちから」を信じ愛して、世界の平和と言論表現の自由のために尽くしたい。

 今、日本ペンクラブは「ペンの日」を期して、ここに独自の「電子文藝館」を開設し、島崎藤村初代会長以来、あまた物故会員の優作を、また、二千人に及ぼうとする現会員の自愛・自薦の作品ないし発言、加えて簡明な筆者紹介を、努めて網羅展観する事業を通じて、国内外に、メッセージを発信する。大きな支持を得たい。

 2001年11月26日 ペンの日


On the establishment of the Japan P.E.N. Club Digital Library

President, The Japan P.E.N. Club
Director, Japan P.E.N. Club Digital Library

Umehara Takeshi

The Japan P.E.N. Club is the Japanese centre of the international P.E.N. The P.E.N. Charter affirms the following: "In all circumstances, and particularly in time of war, works of art, the patrimony of humanity at large, should be left untouched by national or political passion," and "Literature, national though it may be in origin, knows no frontiers, and should remain common currency between nations in spite of political or international upheavals." In order to oppose nuclear testing, support movements for the preservation of the environment and human rights, and fight to protect freedom of speech, the power of our members' art is absolutely essential. Our belief in "the might of the pen" forms the basis of our efforts to maintain world peace and freedom of speech.

Today, in honor of its annual "P.E.N. Day," the Japan P.E.N.Club moves to establish its own "Digital Library" in which the best works of our past members, beginning with Shimazaki Toson, our first president, will be recorded. In addition, our nearly 2,000 current members will select their own works to be included in the library, along with introductions. Thus, we would like to amass as complete a collection as possible of modern and contemporary Japanese literature, to be made widely available to both domestic and international readers. We hope that you will lend your strongest support to this undertaking.

November 26th, 2001


 日本ペンクラブ電子文藝館は平成十三年十一月二十六日、創立六十六年「ペンの日」に、予定通り「開館」し、すでに多くの作品を出展しています。とは云え、機械環境の流動化に影響され、安定したかたちで作品をお届けし得ているか、まだまだ安心できません。
 なお、多くの試行錯誤を重ねてより良い本文をお届けしたく、もしお手元で不都合の生じておりますときは、ご寛恕のうえ、恐れ入りますが具体的にご指摘、ご一報給わりますよう。能うかぎり改善して参ります。

日本ペンクラブ電子文藝館

 

5月更新新着案内

「招待席」に 能村 登四郎 芒種 抄 を掲載。(pdf版はこちら)(May 17)
「ノンフィクション」「児童文学」に 川島 民親 スズメバチの死闘 を掲載。(pdf版はこちら)(May 17)
「戯曲・シナリオ」に 小山内 美江子 3年B組 金八先生 を掲載。(pdf版はこちら)(May 16)
「招待席」に 菅 忠雄 銅鑼 を掲載。(pdf版はこちら)(May 16)
「招待席」に 十一谷 義三郎 仕立屋マリ子の半生 を掲載。(pdf版はこちら)(May 16)
「評論・研究」に 大越 哲仁 回想のアンネ・フランク・ハウス を掲載。(pdf版はこちら)(May 13)
「和・欧訳」「詩」に 井上 章子 SUMMER REVERB を掲載。(pdf版はこちら)(May 10)
「招待席」「反戦・反核」「主権在民史料」に 松浦 喜一 日本国憲法を護る を掲載。(pdf版はこちら)(May 06)
「招待席」に 尾崎 紅葉 門弟泉鏡花を励ます書簡 を掲載。(pdf版はこちら)(May 06)
「詩」に 布川 鴇 湖の向こうに を掲載。(pdf版はこちら)(May 02)


4月更新新着案内

「短歌・俳句」に 櫟原 聰 火と樹と を掲載。(pdf版はこちら)(Apr 27)
「招待席」「主権在民史料」に 蝋山 政道 よみがえる日本 占領下の民主化過程 を掲載。(pdf版はこちら)(Apr 25)
「小説」に 深田 久彌 あすならう を掲載。(pdf版はこちら)(Apr 12)
「招待席」「主権在民史料」「反戦・反核」に 林 茂 太平洋戦争 総力戦と国民生活 を掲載。(pdf版はこちら)(Apr 08)
「短歌・俳句」に つつみ 真乃 うしろ髪ざくりと剪りて を掲載。(pdf版はこちら)(Apr 07)
「招待席」「主権在民史料」に 大内 力 ファシズムへの道 準戦時体制へ を掲載。(pdf版はこちら)(Apr 05)
「評論・研究」に 梶原 和義 ユダヤ人問題と人類の将来 を掲載。(pdf版はこちら)(Apr 04)



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